法人成り後、個人事業を廃業しないのはOK?届出が必要なケースと注意点
この記事をご覧の方は、以下のようなお悩みをお持ちではありませんか?
- 「個人事業を残したまま法人成りできるの?」
- 「個人事業を残したままだと何かデメリットがある?」
結論から言いますと、個人事業を残したまま法人成りはできますが、デメリットが大きいため一般的には廃業することをおすすめします。
本記事では、以下の内容を解説していきます。
- 法人成り後に個人事業の廃業届は必要?
- 個人事業の廃業時に必要な書類・届出
- 法人成り後、個人事業を廃業しない場合の注意点
個人事業を廃業しないまま法人成りしてしまったという方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
法人成り後に個人事業の廃業届は必要?
法人成りすると、基本的に個人事業をそのまま承継した形で事業運営が継続されますが、本来であれば「個人事業を廃業して事業形態の切り替え」をすべきでしょう。
なぜなら「法人と個人で売上を分配」する形になるため、事業実績としての売上が減少するからです。
また、会社法上も、役員である代表者は「競業避止義務」があり、会社の事業と重複する取引は原則として行えません。
もちろん、個人事業で営んでいた内容とは別の事業で法人化した場合はこの限りではありません。
しかし、法人成りとは「法人に事業承継することで、個人資産と負債を会社に引き継ぐ」ことを指すため、個人事業を残すメリットは見当たりません。
では、個人事業主から法人成りした際、必ず廃業届を提出しなければならないのでしょうか?
実は、廃業届の提出が必要なケースと、不要のケースがあるのです。
①個人事業の廃業届が必要なケース
これまで営んできた事業の全てを、完全に法人として引き継ぐ場合は廃業届の提出が必要です。
ここでしっかりと個人事業と法人の区切りをつけることで、後の事業運営で発生する融資や各種契約などを結ぶ際に明確な情報を提示できるようになります。
また、事業が完全に引き継がれているにも関わらず廃業届を提出しなかった場合、法人と個人の両方で税務申告をしなければならないのです。
しかし、事業実態があるのは法人だけで、個人としては運営していないため確定申告をすることはないでしょう。
この「確定申告をしていない」という点だけが税務署の目に止まってしまうため、税務調査の対象になってしまうこともあるのです。
そのため、事業を完全に法人会社が引き継ぐ場合は廃業届を提出して、個人事業は行なっていないことを示さなければならないのです。
②個人事業の廃業届が不要なケース
個人事業を複数営んでいた場合、法人が一部を引き継ぐようなケースでは廃業届の提出は必要ありません。
例えば「物販や制作事業は個人として請け負い、コンサルティング事業は法人化する」というようなケースが該当します。
これは、個人事業を完全に廃業していないので、廃業届が必要ないことがわかります。
個人事業の廃業時に必要な書類・届出
法人成りしたことで廃業届を提出する場合は、これからご紹介する書類を準備してください。
また、ここで紹介する書類は各都道府県の税務局で手に入れることができます。
また、下表のリンクからは、国税庁が用意している様式のダウンロードが可能です。
提出書類 | 対象者 | 書類の提出先 | 提出期限 |
すべての個人事業主 | 所轄の税務署 | 廃業日から 1ヶ月以内 | |
すべての個人事業主 | 都道府県税事務所 | 提出先により異なる | |
青色申告事業者 | 所轄の税務署 | 廃業翌年の3月15日 | |
予定納税をしている事業者 | 所轄の税務署 | 廃業した年の 7/1~7/15 または 11/1~11/15 | |
届出書 ※2 | 給与支払いのある 事業者 | 所轄の税務署 | 廃業日から 1ヶ月以内 |
消費税を納税している事業者 | 所轄の税務署 | 廃業日から 1ヶ月以内 |
※1.「各都道府県税事務所への廃業届出書」と「事業廃止届出書」は同じものです。また、東京都主税局では別の様式を使用しているためこちらから確認してください。
※2.個人事業主が別事業や事務所を設立した場合は提出不要です。あくまでも法人成りした際に必要な書類ですのでご注意ください。
法人成り後、個人事業を廃業しない場合の注意点
個人事業主から法人成りした場合、通常は個人事業を廃業することをおすすめします。
法人成り後も個人事業が継続する場合は、廃業せずに法人と個人の両方で税務申告してください。
なお、個人を廃業した場合もその年の1月1日から廃業までの期間の税務申告は必要です。
個人事業で営んできた一部の事業を承継して、個人事業を残してしまった場合、これから紹介する注意点を覚えておきましょう。
①売上が分散する
前述した通り、個人事業と法人で売上の分散が発生するため、トータルの売上は上がっていても、個人・法人ごとの売上は目減りしてしまいます。
売上の分散は事業規模の縮小につながるため、個人・法人ともに良い結果にはなりません。
②融資の審査で不利になる
法人と個人の事業については、それぞれ別のものとして扱われます。
しかし、先に挙げたように個人事業を残したことによって「事業規模が縮小されてしまう」ためにマイナス評価を受けてしまうのです。
もし個人事業を適切に廃止していれば、法人の事業規模が大きくなるため融資が通りやすくなります。
③取引先に混乱を与えてしまう
同じような事業内容で法人と個人の両方が残ってしまう場合は、取引先はどちらと取引すれば良いのかわからなくなります。
もし「意図的に売上を分散している」と判断された場合「脱税の手伝いをさせられているのでは?」という不信感にもつながってしまうのです。
④税務申告が個人と法人の両方に発生する
法人は個人事業主の時とは違い、決算月に税務申告を行います。
しかし、個人事業が残っていれば、年度末に締めを迎え、翌年2月16日から3月15日までに確定申告しなければなりません。
決算月がずれ込めば、年2回の税務申告をしなければならなくなり、同時期だった場合も2つの事業体で税務申告しなければならない手間が発生します。
また、同時期の税務申告の場合、申告内容の重複や漏れなどのミスが発生しやすくもなるので注意しましょう。
法人成り後の個人事業の廃業を迷っている方は
ここまでの説明では「法人成りするなら個人事業は廃業すべきだ」と説明してきましたが、個人事業が残っていることで「別事業にも着手しやすい」というメリットがあることは忘れてはいけません。
個人事業主には「事業主の裁量で全てを決められる」という大きなアドバンテージがあることも確かです。
ただし、ここまでの説明でもわかるように、個人事業を残すことのデメリットが大きいことは無視できません。
これらの理由により、個人事業の廃業をどうすべきか判断しきれないという場合は、税理士に相談してみることをおすすめします。
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まとめ
個人事業主から法人成りするということは、今後の事業拡大を見通していて、より優遇される制度を取り入れていくということです。
もし法人成り後の足を引っ張ることとなるのであれば、個人事業はできる限り早急に廃止するようにしましょう。
まだ他にも可能性を見つけたいという場合は、個人事業を残すデメリットをよく理解した上で決断してください。
そして、適切な税務申告を心がけることも忘れないようにしましょう。
法人としての事業運営や展開の方向について、しっかりと話し合えるパートナーが欲しいという場合は、事業相談も受けてくれる税理士を見つけることをおすすめします。
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