個人事業主がわざと赤字で申告するのはOK?知っておきたい注意点
個人事業主の場合、ある程度経費や収入・給与所得を自由に調整できます。
勘定科目を設定するのが面倒でほとんどの経費を事業主貸・事業主借で済ませてしまっているという事業者もいる状況です。
そんな中、浮かんでくるのがこんな疑問。
「個人事業主はわざと赤字申告できるのではないか」
本記事では、以下の内容を解説していきます。
- 個人事業主がわざと赤字にするのはOK?
- 意図的でない赤字ならOK!確定申告をするメリット
- 個人事業主の意図的な赤字はNG!正しい確定申告を
ちょっとしたズルならバレないだろうと考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
個人事業主がわざと赤字にするのはNG?デメリットを解説
端的にいうと、個人事業主は簡単に赤字申告できます。
ただし、不正な申告なので、万が一税務署に目をつけられると大きなペナルティを課せられることになると覚えておきましょう。
法人であれば、赤字経営によって法人税の節税ができます。
赤字だからといって倒産するわけではなく、収支の中で支出が多くなることで赤字になり、結果として法人税を納付しない法人は全体の約6割もあるのです。
対して個人事業主の場合、法人と同じように意図的に赤字になるような調整を行うとより「税務調査の対象」にされやすくなります。
では、法人と同じように「継続的な赤字」を作った個人事業主にあるデメリットを考えてみましょう。
①税務調査で狙われやすくなる
営業不振による赤字と、意図的に継続した赤字を作り出した場合の違いは、申告内容を確認することで判断ができてしまいます。
個人事業主が意図的に継続した赤字を作り出している場合、過去の経費の流れとは異なるリズムができてしまうため、異様に目立ってしまうのです。
また、個人所得のマイナスが継続している場合、税務署から以下のような疑いの目を向けられます。
- 「どうやって生活しているか不審」
- 「売上を誤魔化したり、経費を水増しして得た不正資金を生活費に使っているのではないか」
- 「個人的な支出を事業の経費として計上しているのではないか」
法人であれば赤字であっても認められる部分もありますが、個人事業主の場合は「税逃れ」とされてしまい、数期にわたり同じような税逃れの兆候が見られれば税務調査が必要と判断されるのです。
また、意図的な赤字作りがあまりにもあからさまで金額も大きい場合、施行初年度から税務調査が入ることもあります。
「税逃れ」と表現しましたが、個人事業主が行う意図的な赤字作りは「脱税行為」に当たることを覚えておきましょう。
②融資を受けづらくなる
個人事業主の場合、赤字経営を行う状況は発生しないとされています。
なぜなら、役員報酬などの本人に対する給与を支払うといったことが経費として認められないからです。
つまり、個人事業主が意図的に赤字作りをした場合、総じて「脱税行為をしている」という判断が下されるというわけです。
金融機関で融資を受ける際、確定申告書や直近の収支報告書の提出を求められます。
その際「個人事業主でありながら赤字運営をしている」ことが判明すれば、経理に不透明な部分があることを金融機関は見抜きます。
金融機関は「債権回収の見込みがある」個人事業主であれば、会社に対して融資を行うのと同様に多額の融資をしてくれるでしょう。
しかし、赤字運営をしている個人事業主の場合、税務調査に入られた結果「税金を支払いきれずに廃業」というリスクが見えてしまうのです。
個人事業主が赤字作りをしている時点で、金融機関からは「融資対象から除外」という判断を受けやすくなることを覚えておきましょう。
③脱税行為で逮捕される可能性もある
個人事業主の赤字作りは、すぐに税務署にバレてしまいます。
数期にわたり赤字作りをしながら確定申告を繰り返していても、税務調査が来ないから大丈夫と思うのはやめましょう。
今来ていないだけで、今後来ないという確証にはつながりません。
下手をすると、査察調査となり、所得税法238条や消費税法64条などの適用により「懲役刑か罰金刑、またはその併科」を受けることもあります。
適用される法律 | 罰の重さ |
所得税法238条1項 「所得税の虚偽の申告」 | 10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、または懲役刑と罰金刑の両方 |
所得税法239条1項 「源泉徴収義務者の虚偽の所得税免脱」 | 10年以下の懲役か100万円以下の罰金、または懲役刑と罰金刑の両方 |
消費税法64条1項 「消費税の虚偽の申告」 | 10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、または懲役刑と罰金刑の両方 |
相続税法68条1項 「相続税や贈与税の虚偽の申告」 | 10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、または懲役刑と罰金刑の両方 |
意図的でない赤字ならOK!確定申告をするメリット
意図的な赤字作りは脱税となりますが、適切な事業運営を行なった結果「赤字が出てしまった」場合は罰の対象とはなりません。
税務署も、申告内容から不正ではないと判断できれば、調査を要するという判断は下さないでしょう。
そのため、赤字だったとしても確定申告を行うことが重要なのです。
では、適切に確定申告をするメリットについて考えてみましょう。
①青色申告なら3年間の損失繰越ができる
確定申告には「白色」と「青色」の2種類があります。
白色の方が申告様式が楽なのですが、白色申告では受けられない優遇があるので、多少の手間の差はありますが「青色申告」するようにしましょう。
青色申告をする最大のメリットが「3年間の損失繰越」ができることです。
損失の繰越では、本年度事業内で発生した赤字を「翌年以降の黒字で相殺」することで、その黒字で発生するはずだった「所得税や住民税の税額を引き下げる」ことができます。
②純損失の金額の繰戻しができる
損失繰越は「将来的な黒字」との相殺ですが、純損失の金額の繰戻しとは「過去の黒字」との相殺を指します。
具体的には、本年度が赤字であれば前年度の黒字と相殺することで、前年度に納めた所得税額との相殺分を還付してもらうのです。
通算の所得税額が小さく抑えられ、赤字決算から短期間で還付金を受け取れるというメリットもあります。
ただし、繰越と繰戻しは同時には利用できず「どちらかの方法」しか選べないので、より有利な条件の方法を見分けなければなりません。
③無申告での脱税がなくなる
赤字決算の場合、確定申告をすることに意味を感じられない個人事業主もいます。
しかし、売上があったなら必ず確定申告をしないと「脱税」につながる可能性があることを忘れないでください。
過去に黒字運営を行なっていた場合、赤字だからといってその年を無申告で進めてしまうと、翌年度以降に確定申告した際に無申告期間の税務調査がくる可能性が高いです。
その際、領収証などの資料の保存状況が悪い場合などは、経費の一部が認められず、思わぬペナルティを課せられることになってしまいます。
個人事業主の意図的な赤字はNG!正しい確定申告を
何度も言いますが、個人事業主が意図的に赤字作りをすることは「脱税行為」に該当するので、絶対にやめましょう。
そして、正しい確定申告をして税務調査の対象にされないように心がけてください。
個人事業主の意図的な赤字作りが判明すると税務調査の対象に選ばれやすく、そのほか以下のような場合に税務調査の対象に選ばれる可能性があります。
- 同業種で不正が多い場合
- 複数の事業を営んでいる
- 売上が急拡大した
- 過去に税務調査を受け申告漏れがあった
- 手書きで申告している
これらの特徴について見ていきましょう。
①同業種で不正が多い場合
どれだけ正しく確定申告していても、現金商売など同業種内で不正が多い場合は税務調査の対象として選ばれやすくなってしまいます。
1人の事業者が正しい申告を続けているだけでは大きな力とはなりませんが、少しずつでも正しい申告が増えればこの流れを止めることができるはずです。
業界全体が正しい確定申告を心がければ、最終的に特定の業種だけをターゲットにするようなことはなくなるでしょう。
②複数の事業を営んでいる
キャッシュポイントを複数持っている事業者は、申告を間違えやすくなるため、税務調査に選ばれやすくなります。
1つの収入に対する確定申告であれば、経費計算や帳簿管理なども単純な事務作業で済みます。
しかし、複数の事業を営むことでキャッシュポイントが増えてしまうと、経理事務が複雑化するため、事業間でのマネーロンダリングを疑われることもあるのです。
複数の事業を営んでいるような場合、できれば税理士に管理を任せることで正しい申告ができる状況を作るようにしましょう。
副業をいくつか抱えている場合も同様です。
③売上が急拡大した
急激な金銭の動きは税務署の目に留まりやすい情報です。
売上が増えているにも関わらず所得税の納税額が適切に増えていなければ、不審点として判断できます。
そうなれば、税務調査が必要と思われてもおかしくありません。
適切に事業運営をしているのか、わざと赤字になるように経費の水増しをしているのではないかという疑問点は、税務調査によって判断されます。
正しい確定申告をしていれば、例え税務調査に選ばれても心配いりません。
④過去に税務調査を受け申告漏れがあった
過去に税務調査を受けて申告漏れを指摘されている場合、その後5年以内に再度税務調査がくることが多いです。
指摘後、正しい税務申告がされているか、帳簿管理は正しく行われているかなど、事業者の改善の確認という面が強い調査です。
ここで再度申告漏れがあり、更に前回調査で「重加算税」を課されている場合には、「重加算税の加重措置」という、通常よりも高い率で罰金を課されることもあります。
心配な場合は税理士に相談してみましょう。
⑤手書きで申告している
手書きの申告に問題があるのではなく、手書きで申告しているとミスがあっても事業者側で気付きにくいので、そのまま間違った内容で確定申告されている可能性が高いと判断されるのです。
税理士の署名もなく、事業者が独自に作成した手書き書類なので、会計アプリなどを使った場合よりも厳しい目で確認されるでしょう。
正しい確定申告をするなら税理士に相談しよう
税務調査に選ばれる理由は多くありますが、どんな状態で選ばれた場合でも税理士が税務を管理してくれていれば不安になる必要はありません。
税理士は、間違いのない内容で正しく申告書を作成してくれます。
また税理士を利用していれば、税務調査に選ばれた場合も、税理士が申告内容の根拠を把握しているため、適切な受け答えができる状況ができているのです。
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まとめ
個人事業主は法人とは違い「わざと赤字を作り出すことは許されない」ことを覚えておきましょう。
もし赤字作りがバレてしまうと、最悪の場合、絶望的な追徴税額を受けることとなるかもしれません。
ある程度売上が立つようになったなら、できるだけ早く税理士との付き合いを持つようにしましょう。
事業内容にも理解を深めてくれた税理士がいれば、今後の確定申告を任せやすくなります。
また、税務調査に選ばれても、あなたの事業運営の正当性を証明してくれる心強いパートナーになってくれることでしょう。